13坪の本屋の奇跡

戦い、そしてつながる」隆祥館書店の70年 木村元彦著

日本サッカー育成の功労者今西和男さんを描いた「得は個ならず」。日本のサッカー協会の組織としての不条理に人生を翻弄された自伝。ノンフィクション作家として圧倒的な取材力と本質を見事に捉えた骨太のこの作品を読んで以来、木村元彦さんという作家は、僕の中では特別な存在。オシムさん絡み、大分トリニータ社長の溝畑さん、木村元彦さんのサッカー関連の書籍は、ほとんど読んでます。そんな木村さんが書かれた闘う小さな書店のドキュメンタリー本。

この隆祥館書店は、谷町6丁目にある小さな本屋さん。先日イベントでこの書店を訪れ、この書店の存在、この書店店主の二村さんを知り、そしてこの本の存在を知りました。

この書籍、二部構成で、一部は小さな書店が振り回される出版業界の理不尽な仕組みに真っ向から奮闘する隆祥館書店の姿。二部は、すでに200回を超える活動となった、作者を招き読者との集いを開催した、数あるトークイベントの中から4回分を紹介。巻末には、トークイベントの一覧が紹介されてます。これ、良質な本を読むためのガイドに仕上がってます。
読み進むにつれ、この本を読んでなかった自分が恥ずかしくなりました。実績ではなく書店のサイズで配本数が決まる仕組み、ヘイト本が街の本屋さんに多い理由。出版業界の理不尽な仕組み、腹立たしさを通り越して、未だにこんなことがあるのかと唖然としました。書店で宣伝した本が、必ずしも書店では買ってもらえないこと。少し想像すれば解ることだけれど書店経営の過酷さが痛切に知れます。

さて書店は、どうやって本を売ればいいのか? 本ってどこで買っても同じもの。本のストーリーや書かれてることが変わることはない。図書館に行けば無料で読める。リサイクルショップやメルカリで安く買える。ネットでポチッとすれば翌日に届く便利なAmazon。電子書籍なんてものまである。リアル書店で買う理由ってなんだろう?
僕は、お店の方と話が出来るカウンターのある飲食店が好きです。スーパーよりも市場が好きなのも同じ理由。今日のおすすめは?って聞いてお願いすることも多いし。お店の人がすすめてくれるケースもある。学生の頃、バイトしてたチェーン店の本屋では、本に囲まれた空間が心地よくて長く働かせてもらいました。お客さんから声をかけられるのは「この本ありますか?」ってことくらい。「面白いお勧めの本ってありますか?」なんて聞かれたことは、なかった。僕がアルバイトだと思われていたからかもしれないけれど、社員の方が、そう聞かれてるとも、思えなかった。今の大型の書店でも同じようなもんじゃないかと。
読みたい本は、新聞や雑誌、テレビやラジオで紹介されて気になれば手帳にメモして後で確認します。本の特集がある雑誌は、ほぼチェックします。でも外れることも多いです。経験上、そのジャンルに精通する知り合いが推してくれる本って、だいたい間違いがない。駄作を読む時間が勿体無いと思うから、そんなアドバイスはとても大事。

そんなことを考えてると、そっか、本屋さんと話をすればいいのかと、今までやったことがない、当たり前のことに気づいた。

書店員さんは、みんな本好きなはずだし。ネットの知らない人のコメントを頼りにするよりも、ずっといい。顔馴染みになったら、色々と教えてくれるかもしれないし。忙しくて迷惑そうだったら、次にすればいいし。
どうでもいい本に時間を奪われるのは、もったいない。素敵な本を紹介してくれる「本のソムリエ」って職人がいてもおかしくはないと思う。そんな存在が近くにあると嬉しいと思うし、応援したいと思う。そっか、隆祥館書店は、そんな当たり前のことを当たり前のように続けていたんだなと。本なんてどこで買っても同じだと、買う側が決めつけていることが、問題かもしれない。

自分のことを知って病気を見てくれるかかりつけ医があるように、自分に必要な素敵な本を紹介してくれる街の書店が、あっても不思議ではない。

日本人の所得が上がらないのは、価格だけでモノを判断する文化が根づいちゃったことも影響してると思ってます。 アートが日本に根付かない理由も、本質は同じかな。心が豊かになること、知識が増えることで起こる変化が、いかに大切なことなのか。そこにお金を投資するって価値観が根づいていくと、日本も変わるんじゃないかなと。

今年になって、また近所から小さな書店が姿を消しました。
少し遠いけど、このお店に、近いうちに寄ってみようかなと。
ほんとこれ、良書です。

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