ゲルハルト・リヒター展

そっかアートって、こういうこと言うのねってお手本みたいな展覧会でした。

お目当ては、「ビルケナウ」
第二のアウシュビッツと言われたアウシュビッツ近くの強制収容所の名前がついた作品。

リヒターは制作の背景をオープンにして、世界観そのものを作品に押し込めることをよくやるそうです。このビルケナウもそう。展示会場では、作品の説明はありませんが、ヒントはありました。

作品は4枚組の作品が3組で構成されています。

一つ目は、絵画そのものの4枚組。
二つ目は、絵画を撮影し絵画と同じ大きさにプリントした4枚組の作品、
絵画作品と向かい合う形で展示してました。
そしてもう一つは、強制収容所だった当時にビルケナウで撮られた写真、4点

この三つの構成から読み取るのは、相当な想像力の持ち主でないと辿り着けないと思うんですが、リヒターは、その制作過程をオープンにすることで鑑賞者の想像を補完し、作品に深さを与えようとしているんだと思います。

リヒターは、ドイツの現代作家であり、東ドイツ出身。世界中で語られるユダヤ人に対しての残虐な行為を行った強制収容所。日本人にはアウシュビッツが有名だけれど、ドイツでは、ビルケナウという名前は、多分、相当重く受け止められていると思う。
作品の制作過程は、その残虐な行為が行われていた時代に、ビルケナウで撮影され4枚の写真を、一枚ずつキャンバスに描くことから始まります。描かれたものの上から、リヒターは、絵の具を重ねていく。何層も描かれるうちに、最初に描かれた、写真の模写した形は、全く解らなってしまう。展示された絵画は、その作品の制作過程を知らなければ、決して、この絵の下に、ビルケナウで撮影された情景が書き込まれたことは、全く解らない状態。

そんなビルケナウ。

背景を知らずに観た人と、そうではない人の、捉え方の違いは簡単に想像できると思う。
僕は、雑誌で、その背景を知った上で鑑賞しました。もう絶句でした。この4枚組、三組の作品群は、ビルケナウで起こった、残虐性も、人の怒りや悲しみ、いろんなものが内包されているように見えて、とても苦しくなった。こんな感覚を美術館で感じたことがなかったので、新しい感覚でした。
リヒターの作品に、写真の上から絵の具で描き足すという手法の作品があります。このビルケナウも、考え方としては同じベクトル。突然、こんなことをやってもあれですが、表現のアイデアとしては練りに練られてるんだと思います。

このビルケナウもそうですが、リヒターの作品は、一枚一枚が、とても深い。小手先でやってることもあるんだろうけど、その背景が作品の血と肉になると、とてつもない力を持つアートの本質を感じ、アートってこういうことなのねって唸ってしまいました。

超、おすすめです。
ぜひ、予習して美術館へ足を運んでほしいと思います。

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