太田順一展 ものがたり
「ものの語りに目をそばだてる」 入江泰吉記念 奈良市写真美術館
太田さんの個展です。
太田さんは、僕の写真にアドバイスをいただている師匠的な存在。とても温厚な物腰なんですが、いつもハッとさせられ、そして次への指針のヒントを与えていただける言葉の重みがとてもがありがたい、尊敬している方です。
作品を写真集では見てましたが、プリントをじっくり観るのは、初めて。
正直に書きますね。
とても不思議な感覚になりました。
全ての展示作品を観ての一貫した感想です。
太田さんの写真には、風の流れを感じないんです。
写真を見てこの感覚になったのは、多分初めてです。
風化という言葉があります。風がその物の形を薄めていくという言葉。この感覚が太田さんの写真には感じなかった。むしろ逆で、形や想いを際立てている感覚がありました。
これは、なんなんだろと。
人物を撮ってはいないけれど、その気配が、濃厚になる。そんなイメージ。
太田さんのお父さんが、書かれた日記の写真を作品化した「父の日記」
僕は辛かったです。
読み進めることが出来なかったけれど、想いはなんとなくわかりました。
僕の親父も、日記を書いてました。
亡くなった直後に少しだけ読んだことがあります。
僕ら家族に残した言葉を見て、親父の凄さと優しさをしっかりと受け取りました。でも病床での苦しさが書かれていないこと、それを知っているだけに、それを表に出さなかった凄みを感じて、今も、それ以上読めてません。
太田さんが、大切なお父さんの日記を、表に出した意義。
作家としての覚悟を突きつけられたようで、これからの僕の指針になりそうです。
太田さんが「ものがたり」と、モノが語るというテーマにしたこと。
「ものの語りに目をそばだてる」という言葉を添えたこと。
なるほどなと頷いてしまった。
深い。
まさにそうだなと。
太田さんの視点は、モノを見るという行為の中に、過去を見る。それが太田流の哲学なのかなと。
一枚一枚の写真ではなく、写真を束で見たときに感じる、この奥行きは、重ねた覚悟や年輪からくるモノなんでしょうか。
生意気ですが、こんなこと感じながら鑑賞してました。
写真に残すという作業。
とても深いことだと、改めて感じてます。
ギャラリートークに、仕事で行けなかったこと、ほんと残念。
とても深い感慨が残る展示会でした。