サード・キッチン

サード・キッチンは、アメリカのとある大学にあるマイノリティが集う学生主催の食堂のこと。日本人留学生の尚美が、そこで様々な人種の学生達と慣れない英語に苦戦しながらも交流し、差別や偏見、固定観念からくる捉え方の違いに気づき、そして自分自身の家族のことを深くみつめていくという小説の良書です。
日本にいると、人種の違いを肌で感じることは難しい。黄色人種であることをマイノリティだと思う日本人が、どれだけいるだろうかと。
この本読んで思い出したのは、遠い遠い学生の頃、大阪から東京へ初めて一人で行った時のこと。街で話かけられた人との会話の最後に「君、訛ってないね」と言われて愕然としたこと。大阪人なのに、言葉のイントネーションが大阪弁ぼくなかったので、そう言われたんだと思うんですが「訛り」という言葉に、敏感に反応しました。
訛り? 大阪なのに訛り? そして今まで味わったこともない卑下される感覚も知りました。大阪にいる時には、自分の住む世界が、他からするとマイノリティーだという感覚はまったくなかったし、言葉が訛ってるという自覚すらなかったですから。
その時に、ふと思ったんです。他府県からの転校生が話す言葉が、面白くて、「訛ってるね」って言葉を自分も使っていたこと。そういう言われる立場になって、初めて自分が、上から発言していることを自覚しました。自分が感じた嫌な感覚を、加害者として転校生に対してやってたことを。
この小説では、異文化の中で暮らすことで知る、偏見、差別、捉え方の違いが、どんどん出てきます。異文化の中に入るってことは、とても苦労することだけれど、他を知ることで、自分を知るきっかけになるということですね。いまでも無自覚に偏見持っていることって多いんだろうなと。すごい考えさせられました。
この小説、読み始めては、他の本を読み始めてしまって、なかなか進まなかったんです。読んでいて捉え方の違いに戸惑ったり、身につまされて苦しくなって現実逃避したい自分の弱さもあってだと思います。 時間はかかったけれど最後まで読んでみて、主人公尚美家族の複雑な関係が、すこし前を向いて終わってたこと。そこから、きちんと知って向き合うって大事だなと思えた、気づいきの多い良書でした。
これNHKの理想的本棚って番組で紹介されてました。
「 人にやさしくなりたい 時に読む本 」の一冊に。
そうね、ほんとそう思います。